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肝炎 hepatitis
急性ウイルス肝炎は、肝炎ウイルスによって起こる肝臓の急性炎症性疾患である。
肝炎ウイルスにはA(HAV)、B(HBV)、C(HCV)、D(HDV)、E(HEV)が知られている。
我国の急性肝炎は通常、HAV・HBVおよびHCVウイルスによる。
従来、非A・非B型肝炎の診断はA型、B型肝炎の除外によりなされてきたが、近年HCV抗体測定の結果、
非A・非B型肝炎と診断された輸血後肝炎例では、80〜90%が、また散発性肝炎では30%がC型肝炎であった。
病因
1.A型肝炎ウイルス
糞便中に検出されるRNAウイルスである。経ロ的に感染する。
低年令層に集団発生をみる。発症した場合治癒するか、極めて稀に劇症肝炎になる。
永久免疫ができる。
2.B型肝炎ウイルス
長年にわたり、ウイルスが血中に証明されることが特徴である。
非経口的に感染(輸血、性行為など)する。
HBVの抗原蛋白には3種類あり、HBsAg、HBcAg、HBeAgである。
それぞれに対応する特異抗体が証明されており、診断に用いられる。
3.C型肝炎ウイルス
ウイルス抗原の検出は未だ不十分である。
しかしC100-3蛋白に対する抗体または第2世代HCV抗体は、ほとんどに陽性である。
症状
前駆期、黄疸前期(発熱期と中毒期に分けられる)、黄疸期、回復期の4期を経過する。
最初に食欲不振、全身倦怠感が現われる。
2〜3日後38〜39度の発熱が約半数にみられ、吐き気、下痢などの胃腸症状と頭痛がみられる(中毒期)。
やがて黄疸が出現し、尿の色が濃くなると、感冒様症状や胃腸症状はしだいに軽快していく。
しだいに食欲が回復し、全身倦怠感も消失する。
黄疸は小児では一週間ほどで消失するが、成人では黄疸消失にひと月ほどかかる。
肝は腫大し、圧痛がある。
なお発熱・感冒様症状のみで黄疸のない例や黄疸のみで発熱のない例などの非定型例も存在する。
検査所見
1.尿
ウロビリノーゲン強陽性、ビリルビン陽性となる。
2.肝機能検査
血清ビリルビンは直接型・間接型ともに増加するが、直接型が優位である。
トランスアミナーゼ(GOT、GPT)は著明に増加し、GPTが優位である。
A型肝炎ではIgMの増加とチモール混濁反応(TTT)の高値がみられるのが特徴である。
3.血清学的診断
●A型肝炎:IgG型HA抗体の上昇やIgM型HA抗体の証明によりなされる。
●B型肝炎:HBs抗原陽性か、IgM型HBc抗体陽性であれば、急性B型肝炎と診断される。
●C型肝炎:Chiron社が開発したanti-C100-3を検出するか、第2世代HCV抗体で診断される。
予後
一般に若年者ほど予後は良い。
劇症肝炎は3〜6%にみられるが、A型では少ない。
慢性化するものはB・C型で多いが、A型では少ない。
治療
安静臥床を保ち、肝血流量を増加させる。
病初期は食欲不振があるため、消化のよい含水炭素中心の食事とし、回後期は高カロリー・高蛋白食とする。
薬物療法は補助的な役割しか果さない。輸液、水溶性ビタミン、肝庇護剤などが通常用いられる。
B・C型肝炎では慢性化率が高いので、その予防のために、抗ウイルス剤として、α-インターフェロンやβ-インターフェロンが投与されることがある。
予防
HBウイルスの感染予防には受動免疫と能動免疫の二つの方法がある。
抗HBsヒト免疫グロプリンによる受動免疫は、HBVで汚染された注射針による創傷や、
HBe抗原陽性の母親から生れた新生児に対する感染の予防に用いられる。
HBワクチンによる能動免疫は医療従事者やHBe抗原陽性者と同居している家族の感染予防のために用いられる。(C型肝炎は予防不可)
劇症肝炎は急性肝炎のうち、最も重症な型であり、広範な肝細胞の壊死により急速に肝不全症状が現われる肝炎である。
1981年の犬山シンポジウムによる診断基準では、「肝炎症状発現後、8週間以内に肝性昏睡II度以上、
プロトロンビン時間40%以下を示すもの」としている。
頻度・成因
頻度は急性肝炎の1〜2%である。
成因はほとんどが肝炎ウイルスであるが、一部薬剤によるものもある。
肝炎ウイルスのなかではHBVが最も多い。
症状
肝性の意識障害は必発であり、その程度は軽度から昏睡までいろいろである。
発熱、全身倦怠感、食欲不振、悪心、肝細胞性の黄疸、肝萎縮による肝濁音界の縮小、門脈うっ血のための腹水、
解毒機能障害によって起こる脳症の症状としての羽ばたき振戦や痙攣、蛋白・脂肪・凝固因子の合成機能障害のために、
低蛋白血症による浮腫や出血傾向がみられる。
検査所見
1.肝機能検査
血清ビリルビンは上昇する。
アンモニアも上昇する。GOT・GPTはむしろ低下する。
総蛋白、アルブミン、総コレステロール、コリンエステラーゼは低下する。
2.血液凝固試験
血液凝固因子の合成障害により、プロトロンビン時間、トロンボテスト、ヘパプラスチンテストに異常が認められる。
プロトロンビン時間は40%以下となる。
3.血漿遊離アミノ酸
バリン、ロイシン、イソロイシンなどの分枝アミノ酸以外のすべてのアミノ酸の増加がみられる。
とくにメチオニンの増加は著明であり、急性肝炎との鑑別に有用である。
4.脳波
軽度意識障害時から徐波がみられる。
三相波は肝性昏睡の重要な所見である。
5.腹部超音波、腹部CT、頭部CT
腹部超音波検査、腹部CTにより肝の縮小を知ることができる。
CTでは壊死部が低吸収域として写るので壊死の範囲を知るのに有利である。
頭部CTは脳浮腫を知る上で有用である。
合併症
合併症は予後を左右する重要な因子である。
播種性血管内凝固症候群(DIC)、腎障害、肺感染症、消化管出血などがみられる。
脳浮腫は直接死因に結び付く重要な合併症である。
予後
極めて悪く、約80〜90%が死亡する。
治療
一般療法・全身管理療法と特殊療法に分けられる。
一般療法・全身管理療法
輸液によるエネルギー、ビタミンの補給ならびに電解質の補給、 出血傾向に対する処置(新鮮凍結血漿、消化管出血の予防にH2ブロッカー、DICに対するFOY・ヘパリンなど)、 感染対策、腎不全対策、脳浮腫に対するグリセオール投与などである。
特殊療法
消炎および脳浮腫抑制のためにステロイド剤の投与。中毒物質除去のために、
血漿交換や肝補助装置による中毒物質の濾過、肝細胞再生のために、グルカゴンおよびインスリンの併用療法、
アミノ酸補正のために分枝鎖アミノ酸製剤の輸液などが行われる。
定義
急性肝炎に罹患後6ヶ月以上肝内に炎症が持続し、肝機能検査で異常の認められるものを慢性肝炎という。
診断は組織学的所見による。
すなわち門脈域を中心とした持続性の炎症があり、円形細胞浸潤と線維の増生により、門脈域の拡大がみられる。
活動性と非活動性に区分される。
活動性では piecemeal necrosis が著明で、小葉内細胞浸潤と肝細胞の変性ならびに壊死を伴う。
非活動性では、これらの病変が軽微である。
なお円形細胞浸潤はみられるが、線維の増生がみられない例は持続性肝炎として取り扱われている。
成因
ほとんどが肝炎ウイルスによる。B型が30%、C型が70%である。
そのほかアルコール、薬剤、自己免疫などが原因となる。
症状
1.自覚症状
全身倦怠感、食欲不振、悪心、腹部膨満感、体重減少、皮膚掻痒感、黄疸などを訴える。
しかし全く自覚症状のない者もいる。
2.他覚症状
肝は軽度ないし中等度に腫大し、硬度も増す。
顕性黄疸、脾腫を認めることは少ない。
急性増悪期には黄疸をみることがある。
手掌紅斑、くも状血管腫を伴うこともある。
肝機能検査所見
ZTT、TTTなど膠質反応の上昇、血清γグロブリンの増加、ICGなどの色素排泄試験の遅延がみられる。
GOT・GPTは100〜150単位の中等度の上昇を示す。
これらの検査値は一般に活動性肝炎に比べ、非活動性肝炎では低い。
血清アルブミン、コリンエステラーゼ、総コレステロールは病状の進展とともに低下する。
B型慢性肝炎ウイルス・マーカー
血清HBe抗原陽性は、血中DNAポリメラーゼ活性と相関を示し、肝の活動性病変を示唆する。
IgM型HBc抗体低値または陰性からの発症はキャリア発症であり、HBV初感染後の急性肝炎と鑑別できる。
C型肝炎ウイルス・マーカー
慢性C型肝炎ではHCV抗体陽性となる。
画像診断
肝シンチスキャンでは、びまん性の肝腫大および肝へのアイソトープの取り込みの低下を認める。
超音波やCT検査では、肝腫大や、表面の性状が分かり、肝硬変などとの鑑別に有用である。
腹腔鏡検査
肝表面の性状から白色調の大白色肝、肝内壊死が強くて赤い斑点を認める斑紋肝、
結節化傾向を示す斑紋結節肝などに分類される。
肝生検
組織診断を行なう。確定診断と活動性・非活動性の鑑別に必要である。
診断
肝機能検査上、血清トランスアミナーゼの上昇、膠質反応の異常、色素排泄試験の遅延があれば、
慢性肝炎が疑われるが、確定診断は生検所見による。
予後
肝機能検査値および自覚症状の寛解と増悪を繰り返しながら慢性の経過をとる。
慢性肝炎(活動性)の診断から2〜10年後に、20〜30%の例が肝硬変へ進展する。
B型肝炎ではHBe抗体陽性例はおおむね予後が良いが、長くHBe抗原陽性の例は肝硬変へ進展し易い。
また組織型によって、予後が異なる。
治療
1.一般療法
●安静:規則正しい生活と食後一時間程度の安静臥床を指導する。
●食事指導:高蛋白・高カロリー食を原則とする。この際、肥満による肝の脂肪沈着に注意する。アルコールは禁ずる。
2.薬物療法
●一般薬物療法:グリチルリチン製剤、肝水解物が用いられる。
●副腎皮質ホルモン:抗炎症作用、免疫抑制作用、ビリルビン代謝促進のために用いられる。
●インターフェロン療法:B型肝炎に対してインターフェロンαおよびβが抗ウイルス作用と免疫調節作用を目的として用いられる。
しかし判然とした効果は得られないという報告がある。一方、C型肝炎には有効である。
HBs抗原陽性着およびHCV抗体陽性者の指導・管理
1.HBs抗原陽性者の指導、管理
HBs抗原陽性着が通常の医療行為を行なっても感染はおこらない。
しかし体液(血液、唾液、精液)の浸出がみられるときは、浸出を防ぐ処置をして医療に従事しなければならない。
医療従事者の健康管理に間してはHBe抗原陽性者とHBe抗体陽性者では多少異なる。
HBe抗原陽性者は月1回受診させ、経過観察の必要がある。
一方、HBe抗体陽性者では、血清トランスアミナーゼが高値の者は感染性が高いので月1回の経過観察とし、
常に低値のものは2月に1回とする。
2.HBs抗原に対する院内事故対策
医療従事者でHBs抗体陰性者はB型ワクチンの接種を受けるように指導する。
HBs抗原に汚染された場合は、48時間以内に高力価の抗HBsグロブリンならびにB型肝炎ワクチンを投与する。
3.HCV(C型肝炎ウイルス)抗体陽性者の指導・管理
HCV抗体陽性者は、血清トランスアミナーゼが低値でも慢性肝炎として指導・管理する。
HCV抗体陽性者の体液で汚染された場合は、輸血後肝炎と同様に扱い、経時的に観察し、
肝機能障害を起こした場合は、例えHCV抗体陰性でもインターフェロンを投与する。